なんだかこういうのはやっぱり懐かしい感じがするねぇ。と両手を額に当てながら内海青葉はそう思う。熱心な学生や後輩を教えるのはやはり楽しい。
ささ!内海先生!続きをお話しますわよ!
そうっす!臨床に出て改めて学生時代の復習をすると、学生の時より想像が付きやすいっす!
まぁ学生時代ではイメージが出来ない事もたくさんあるからねぇ。ならもう少しだけ詳しく呼吸の事を見てみようかねー!まず酸素はどうやって細胞の中に運ばれるのだろうかねー?
それも先輩に教わったっす!肺胞の中に入った酸素の分圧、その圧力で血中に押し出されるように移動するっす!そして赤血球のヘモグロビンに結合して細胞の中のミトコンドリアで沢山のエネルギーを作る材料の一つになるっすね!
提供ココハレ先生『内呼吸、外呼吸、肺毛細血管血流速度はイメージが大事』
だねー。と内海は白波百合の言葉に返事をしながらあの新人ちゃんもちゃんと指導していると考えると感慨深いとも思うし、まだちょっと甘いとも思う。そして取り出したタブレットに再びココハレ先生の動画を流すと、二人はおぉ!と感情を上げる。この方ともいつかお話ししたいなぁ。ふとそんな事もまた思う。
ふむふむ。ならそのエネルギーが産出された結果出てくる二酸化炭素はどうやって運ばれるんだろうかねー?
えぇと・・それは血中に・・・あれ?どうやってっすかね?
ふふんー。酸素よりちょっと複雑かなー。まずは血漿や赤血球の中で、CO2はH20とくっ付いて、H2CO3(炭酸)になるのねー。そしてHと(水素)とHCO3(重炭酸イオン)と別れて運ばれるのさー。それから肺に戻ると逆向きの過程でCO2とH2Oとなって肺から排出されるんだよねー。
ふむふむ。肺胞の中は二酸化炭素の分圧が低いから逆に肺胞の中に押し出されるという訳ですわね!
そうそうー。それを簡単に書くとこういう感じかなー。ここで使われるtorrって表記は水銀を1mm押し上げるって事の単位だねー
白波と桜井玲奈はふむふむと何度も頷きながらその動画を覗き込むのを眺めて、内海はひっそりと笑みを浮かべた。多分学生の時には余り深く理解出来ない所でもあるから、学生に上手く教えるにはどうしたもんかねぇとも思う。
そしてこれを簡単に理解して置くことは後の塩酸基平衡の理解にも繋がるからざっくりとでもイメージはしておいてねー。そしてこの移動が効率的に行われるにはどんな環境が必要かなー?
それは・・・しっかり肺胞の中に大気が満ちていて、そしてそこに辿り着く血液もまたしっかりと有る・・・って事っすかね?
換気血流比って事ですわね!肺胞への換気とそこに流れる血流の比率・・・確か呼吸不全の原因の一つとして習いましたの!
よく覚えていたねー!でもこの比率を意識する事は普段のリハビリでも集中治療室で行われる人工呼吸器でのリハビリでもとっても重要になるから覚えておいてねー。
はーいと返事をする二人に内海は笑みを浮かべる。かつて山吹達と働いた病院。そしてその集中治療室でのなんとも言えない匂い、それはいつだって鮮明な思い出と共に脳裏に浮かんでくる。
白波さんの言った通り、肺胞が十分に膨らんでいてそこに流れる血流もまた十分ならば換気血流比は良好だね。ならその逆は?
肺胞が障害されて萎んでいたり、高度の脱水や心臓の障害、炎症でそこに至る血流が十分ではない時っすね!
ふむ。それに痰が増えて肺胞の中に十分に酸素が入らない事もまた原因ですわ。無気肺といった所でしょうか?
そうだねー。だから普段はそうならないように痰を口から出すための繊毛運動があったり、呼吸があったり、そして何よりも肺胞が潰れないようにサーファクタントという物質が表面張力を無効にしてくれるの、逆を言うとCOPDに代表される肺の疾患ではそれが破綻するから肺胞が潰れてしまい易い、そして別の肺胞に空気が流れ込んで肥大化しブラという状態を作るんだけどここはまた今度のお話かなー。ともかく気道が開通していて、肺胞が正常に膨らんで、そこに至る血流が確保されている。そういう状態があって初めて、この前話した呼吸の運動が正常に生きてくるという事をしっかりと念頭に置く事だねー。そしてそれらがしっかりと成り立ち、その先のヘモグロビンと結合し運搬され、組織での代謝によって作り出されたエネルギーがボクらの生命活動の源になり、それで生じた二酸化炭素などの排泄物を体の外に出して、生命活動を破綻させないようにしている。細かい生化学的な代謝はまずは置いておいて、解剖学的に運動学的にそして生理学的に理解するのがその先の病態とリハビリテーションを学ぶ基礎だとボクはは思うねー!
彼女たちが導き出した答えを最後に内海はさらさらとまとめて見せる。そして新人ちゃんには教えられなかった心の部分。そしてそれは主任が消えてしまった事で更に悪化してしまったかのようにも思えることを伝えられなかった事もまた思い出す。それだけは悔しいなぁと内海は感じる。
もう暗くなって来たし今回はここまでかなー!まだまだ喋り足りないけど、呼吸の基礎についてはちょっとは教えられたかな?
まだまだ有るんすか!?でも本当に勉強になったっす!臨床でいろんな障害を見るからこそ復習する事は常に大切っすね!
貴重な時間を割いて頂きありがとうございました。本当に良い復習になりましたわ!まだまだ教えて貰いたいくらいですの!
ふふーん!そこから先はあの山吹にでも教えて貰ったら良いさー。そして何を教わったかをボクにも教えてねー。
うっす!と敬礼をする白波の横で、両手を組んだ桜井はポヤヤンと何かを想像している。その二人を見て内海はメガネの淵に触れた。
なら今日の最後にそうだなー。知識が豊富で、技術が卓越したセラピストが良いセラピストとは限らないんだからね。それだけはきちっと心の中に留めておいて学ぶ事を続けてください。
いやいや・・・内海先生や先輩から教わる身としてはなんか説得力がないっす・・・
そうですわね・・・。それでその良いセラピストとは何ですの?
ふふふーそれは秘密ー!
なんだそりゃと二人は同時に肩を落とす。そして内海は再びメガネの淵に触れる。それは教えられる事ではなく気が付かなければならない事だから、そしてそれは山吹薫も・・・かつての主任だってそうなのだ。
白波百合のノート 117
・呼吸運動は体の動きばかりに目が行きがちではあるけれど、しっかりと体の中で何が起きているかを念頭に置いてから介入を行う。
・解剖学と運動学、そして生理学を学んだ先に病態理解があり、その先で初めてリハビリテーションがある。それを忘れない。
・良いセラピストって・・・やっぱり知識や技術が豊富なセラピストだと思うっす。
【〜目次〜】
『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。
【総集編!!】
【これまでの話 その①】
【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】
【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】
【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】
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