COPDの話 その①  〜COPDの病態の概要〜

COPD

なんか悪い事してもうたな。坪井咲夜はぼんやりとリハビリ室のプラットフォームに腰をかけて足を揺らす。するとちょうどドアが開き、沢尻悠が顔を出し、一瞬目が合った後、コホンと態とらしく沢尻は咳払いをする。

沢尻 悠
沢尻 悠

よう。山吹さんから聞いたけど・・・お母さん良かったな。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

らしく無い台詞やな。真面目な台詞は似合わへんで。

母の容態は落ち着いている。酸素ももう要らない。若さからか回復は早い。でも素直に言葉は出て来ない。それは沢尻に対してもだと坪井は思う。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやな・・・なぁCOPDの事に教えてくれへん?アンタも詳しいやろ?

沢尻 悠
沢尻 悠

・・・・ふむ。そもそもCOPDというのはタバコやアスベストといった外的な因子も大きく影響して、気道に慢性的な炎症が起きたり、肺胞が自体も障害されて弾性を失い潰れてしまう事もある病態だな。慢性疾患の一つで数ある慢性疾患の死亡要因で高い位置を占める。世界的にも問題な疾患だ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なんやそれ。山吹さんの真似かいな。

普段な器用な男のあまりに不器用な仕草に、坪井は柔らかく笑みを浮かべる。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

いわゆる慢性閉塞性肺疾患って事やな。閉塞性の障害、つまりは今アンタが言うたように気道がタバコなどの生活習慣で慢性的な炎症を起こす。そうすると自然と気道は狭くなり閉塞の傾向になる。それで慢性閉塞性肺疾患って事やな。

沢尻 悠
沢尻 悠

そして肺胞も障害され虚脱して、そこに入るはずの空気は正常な肺胞へと流れ込み肥大する。ブラとも呼ばれる巨大な風船のようになってしまう。昔は慢性気管支炎と肺気腫と別れて呼ばれていた病態だね。発症率は40代以上で高くて、日本中で530万人もいるとされるらしいね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

特に高齢の男性に多い印象やな。もちろん社会的な背景もあるし、昔は今ほど禁煙を推奨する社会でもなかったから、一概にタバコを吸っていたから悪いとは決めつけられへんな。

沢尻 悠
沢尻 悠

そうだね。それに一時期問題になっていたアスベストに関連する仕事に従事していた方もいる。かといって女性でももちろん患う人はいる。

その言葉の後に一瞬目を丸めた沢尻が坪井を見る。坪井は一度首を横に振り、笑みを浮かべる。随分とみんなに気を使わせているんやなとそう思う。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そして症状やな。空気の通り道である気管支が正常ならば空気は問題なく通過するんやけど、気管支が慢性的に炎症を起こしていると、気管支の壁は厚く腫れて空気の通り道が狭くなるんやな。細い通り道を流体が通るともちろん勢いは強くなるんやけど、その分強い力がいるから余計やな。

沢尻 悠
沢尻 悠

それに炎症を起こしているという事は、当然分泌物も増える。それはネバネバとした痰として咳き込みとともに喀出される。慢性的に咳をしてしまうのもそうだね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そして肺胞やな。ここは気管支の末端のぶどうの房の様な部屋やな。そこに本来なら空気を貯めて酸素を血管に渡す部分やねんけど、そこも障害される。

沢尻 悠
沢尻 悠

普段ならスムーズにいく部分も、肺胞自体が破壊されて大きな風船となってしまうと、肺胞とそこに分布する血管の面積に大きく差ができてしまうよね。空気という荷物を受け渡そうとしても、そんなに大きくなってしまった場所では当然受け渡しが出来なくなる。

あの集中治療室でみたリハビリ。それはまだ自分の知らない世界だった。人工呼吸を使用した方の離床は怖い。それ以上にその様な状態になってしまった方の前で正常な気持ちで居られるのか。それは自分には分からない。

沢尻 悠
沢尻 悠

そして症状だね。さっきも少し話したけれど、多くは風邪をひいていなくても、咳や痰がずっと続くという事かな。そしてそのまま何もせずに生活を続けていると次第に息苦しさを感じる様になってくるんだよね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやな。まずは階段や坂道がしんどくなって、周りの人と同じスピードで歩いているはずやねんけど、自分だけ息切れを起こす。そして次第にお風呂に入ったり、着替えをする時にも息切れを起こしてしまうんやね。

沢尻 悠
沢尻 悠

なんだ体力が低くなるだけかと思いつつ、それはとっても怖い事なんだよね。苦しさにも慣れてしまうから、段々とそれが当然だと思ってしまう。でもそれは血中に酸素が少ない状態に慣れているという事。そして脳を中心として体はその機能を維持するために酸素が必要。それが足りないという事は、それらの維持も難しくなってしまうという事だね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

辛い言い方やけどな。例えば酸素と二酸化炭素の交換が上手くいかなくて、体の中に二酸化炭素が溜まってしまう。そしてそれは呼吸を抑制してしまうから、呼吸という普段当たり前に行っている事も難しくなんねんな。そして臓器も機能を維持できずに多臓器機能障害を起こし、そして低酸素脳症。つまりは頭にも酸素がいかずに重篤となる。もちろんCOPDに限った話と違うけどな。

自分の母はそこまで至らずに今は少しずつ元気になっている。もしICUでのリハビリが奏功せずにそのままだったらと思うと、もうどう言葉を交わそうだなんて悩む事も出気なかった。

沢尻 悠
沢尻 悠

何よりも慢性疾患は他の人に言える事だけど、既往歴に書いてあるからといって過去に治療が終わったわけではなく、今もなお続く疾患だという事を念頭に置かなければならないね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

そやな。しかしアンタ今日は真面目に話すねんな。

いつもそうだよ。と答える沢尻の真意は分からないが、それでもまぁ自分もまたどう振る舞って良いかは分からない。なんや難しいな。と坪井は思った。

坪井咲夜の手帳 その5

・COPDは慢性的な気管支炎と肺胞が障害される肺気腫の二つが症状として現れる。

・症状は咳と痰だが、息切れもまた重要な所見。低酸素症には注意。

・素直に話すって難しい。

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

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